黒♭のBLOG

海外在住を通じて日本を客観的に見ることができています。その時々で考えていたことを、自分自身の考えの記録として残せればと思います。

イノベーションのジレンマとは人々の心理が分からないこと

ジャパンディスプレイ、本当にどうなっちゃうんですかねぇ。ファンド側は、JDIを一度倒産させた上で買い叩いてその後のV字回復を狙ってるのかも。クワバラクワバラ。
JDI社員に知り合いが多いから本当に本当に心配しています。SNSを見る限り彼らの動きが最近見えないんですよ。SNSに私事をアップするのが不謹慎に感じるくらいヤバイ?

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で、VisionoxとTCLですかぁ。なるへそ。それならあり得ますね。
Visionoxは有機EL専門会社のくせに技術レベルが大陸内でも最低です。TCLは何でもかんでもやってるけれど、技術レベルはVisionox同様に低く、商売するレベルに持っていけない体質があります。どちらも確かに、喉から手が出るほどJDIの技術者が欲しいことでしょう。
「大陸に行くなら雇用継続、日本に残るなら解雇。どっちを選びます?」と株主様に言われる日が近い...。


閑話休題

「総ての液晶が有機ELに置き換わる!」
約10年前私がこう言いまわっていたときのこと。いわゆる専門家ほど私を小馬鹿にしてくれました。有機ELは液晶に比べてコストは高いし、焼き付きの問題はあるし、消費電力も高いし、云々。確かに技術的に考えればそうなんでしょうね。私も専門家の端くれです。そんなことあなた方に言われなくても分かってますよ。

でも今実際に起こっていることを見ると、技術面から見た正しさなんて何も意味が無いことが分かります。こんなことがありました。

今年の春、長らく使っていた液晶TVの動作がおかしくなっちゃったので買い換えることにしたんです。都内の大型家電量販店に行き、32~42型のFHD液晶を選んでいて愕然としましたよ。その安さに?いえいえ違います。その画質の汚さにびっくりしたんです。
その瞬間「あぁ、またか」と過去のことが頭をよぎりました。90年台後半に起こったSTN液晶 vs a-Si TFT液晶、2000年台前半に起こったMIM液晶 vs a-SiTFT液晶の戦い。ここではSTN液晶 vs a-SiTFT液晶の戦いについて、そこで何が起こっていたのかを語りましょう。

その頃既にSTN液晶は旧世代の技術と認識され、早晩a-SiTFT液晶に置き換わるとの流れはありました。でもその流れに抗う様に、STN液晶でも新たな技術(MLA駆動)が開発され、a-SiTFT液晶並みの画質を実現できることが実証されていました。
しかしその時STN液晶の開発者たちはお客様にこう言われました。
「a-SiTFT液晶と同じ程度の画質なのは結構。でもコストが現行STN液晶より高くなるなら、元々高いa-SiTFT液晶でいいよ。新技術感があって売り込みやすいし。」
結果、STN液晶はMLA駆動を開発したがゆえに逆により一層のコストダウンを求められ、汚い画質のものしか作れなくなり、ついには安すぎて作ることすらできなくなりました。
その頃の状況にそっくりと感じたのです。

画質を上げる技術はたくさんあるのに、32~42型のFHDなんて安すぎてそういう技術を採用することができないんです。一方で55~65型の4K液晶は今でも十分に綺麗ですよ。そこに使われている技術は32~42型のFHD液晶にも当然使えるんです。でも、使えないんです。
高画質を求める客にはお店としてはもっと大型のサイズを勧めるでしょうし、精細度も4K,8Kが良いですよと言うに決まっています。お客様対応時間あたりの利益を考えれば自ずと明らかです。小さいサイズでFHD、でも高画質が良いなんていう面倒な客は甚だ効率が悪い。そんな客を相手しているよりも、小さくてただ安けりゃいいという需要はまだまだあるのでそれで良いじゃないかと。
で、店に並んでいる液晶が汚い画質のものだらけになる、安かろう悪かろうが当たり前になる、安すぎて作れなくなる、結果次世代の技術のもの(有機EL)しか作れなくなる。
実際、今まさに液晶 vs 有機ELで全く同じことが起こっているんです。

JDIの液晶も実はそのMLA駆動STN液晶の轍を踏んだだけのことなんです。インセルタッチとかフルアクティブとかコストが高くなる方向で有機ELに臨んだら、そりゃ有機ELでいいや、ということになるのは明らかだったわけです。

イノベーションのジレンマに陥ったJDI。
確かに技術的に見れば液晶は有機ELに負ける気がしなかったでしょうね。でも最終顧客、販売店の人達の心理が分かっていれば、ジレンマに陥ることは無かったんじゃないかと思います。

 

2019/06/25 黒♭
(Rakuten Blogから引っ越しました。)

 

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