黒♭のBLOG

海外在住を通じて日本を客観的に見ることができています。その時々で考えていたことを、自分自身の考えの記録として残せればと思います。

ジャパンディスプレイ、何もしなかった罪 #3

ジャパンディスプレイ設立から7年もの間、何もしなかった罪について引き続き語る。関係者の話を総合すると、下の縛りがあったとのこと。

(1) 安倍政権に対する忖度の縛り
(2) 元会社の縛り
(3) 社外に対するアナウンスの縛り

今回は最後の (3) 社外に対するアナウンスの縛り について説明していこう。
この縛りは日本的経営によるところが大きいので、必ずしもJDIの特定の問題とは言えない。この縛りは上手く使えば経営として実に有効な武器にもなるが、JDIの例の様に諸刃の剣にもなりうる、ということだ。

 

(3) 社外に対するアナウンスの縛り

これは、縛りを積極的に作っている訳ではないのに自然と縛られてしまうという点で、経営側としては実に厄介な問題である。

経営危機のときに社外に対して会社はまだまだ安心だと説明することが良くある。追い込まれているときに実際に追い込まれていますと認めるのは経営者として無能を認めることにもなり、それは実に勇気が要ることだ。だが、事実を捻じ曲げて発表することで社内の従業員に誤ったメッセージを伝えることがある。

日本の会社で実によくある話。経営危機にあった当時のSharpも全く同じだった。外から見れば既に徳俵一枚の状況に追い込まれていたのに、当時のSharpの従業員らに危機感は全くなかった。JDIの場合、2017年の経営危機でも今回の経営危機でも全く同じ。今でも皆、異口同音に「我々が今できることをやるだけだ。」と語る。これがいわゆる正常化バイアスの怖さなのだろう。

こういう状態も従業員が会社に対して従順だからこそ起こること。JDIの社員はもっともっと経営者に怒りをぶつけるべきなのだ。

JDIとは対称的な例として、トヨタ豊田章男氏が好業績にも関わらず社員に危機意識をもたせるためにボーナス昨年比減という決断をしたことが挙げられる。

www.j-cast.com

経済ジャーナリストらからの評判は散々なものが多いが、私は、彼の方は日本人の習性を良く分かっているなと本当に感心している。トヨタは表向きの業績面が好調である故にこういうことができるのだという見方もあろうが、私が彼の方とJDIの歴代経営者らを見比べて思うのは経営者としての責任感の有無である。
JDIの経営者らに言いたいのは、確かに経産省産業革新機構からの間違った要求があったことは確かだろうが、一方で彼らの要求をのむことで彼らに自らの責任の一部を転嫁していなかったか、ということである。その責任転嫁の態度が末端の社員にまでしっかり伝わり、自分の仕事以外がどうなろうと自分には責任はないという風潮を作ってしまったことは否めない。

JDIが経営危機に瀕していることを認めるのは産業革新機構経産省が失敗したことを認めるということを意味するので、そんなことは有り得ないと言われることでしょう。でも従業員と経産省の小役人、どちらが本当にあなた方にとって大事だったのでしょうか。刺し違えても、嘘にまみれたアナウンスはすべきではなかったのではないですか?

これまで有機ELの開発・量産化に関するアナウンスについても嘘、ごまかし、朝令暮改のオンパレードでしたよね。それを従業員はどういう目で見ていたと思います?

 

JDI旧経営陣の方々、日経ビジネス「敗戦の将、兵を語る」のコーナーでぜひ大いに言い訳をして頂きたい。それがひいては日本社会のためになると思うので。

 

2019/07/15 黒♭

 

前回記事:ジャパンディスプレイ、何もしなかった罪 #2
前々回記事:ジャパンディスプレイ、何もしなかった罪 #1

ジャパンディスプレイ、何もしなかった罪 #2

ジャパンディスプレイ設立から7年もの間、何もしなかった罪について引き続き語る。関係者の話を総合すると、下の縛りがあったとのこと。

(1) 安倍政権に対する忖度の縛り
(2) 元会社の縛り
(3) 社外に対するアナウンスの縛り

今回は (2) 元会社の縛り について説明していこう。

(2) 元会社の縛り

JDIはソニー・日立・東芝のモバイル・ディスプレイ事業を統合して設立された会社である。JDI統合前にも、それぞれの会社に三洋、エプソン東芝パナソニック、キャノン等が統合されていた。JDI設立後も元会社、元々会社の縛りがあったと聞く。

1年前の時点でも、ソニー出身者の給与は日立・東芝出身者の給与に比べ異常に高かった。ソニー以外の会社の出身者のモチベーションが大きく下がるのは避けられなかったろう。
ソニー出身者から言わせれば、初期のJDIの開発・営業を支えたのは旧ソニーが育ててきた技術だったことは紛れもない事実であった。彼らには、JDIを牽引してきたというプライド、そして高い給与にふさわしい働きをしているという思いもあったろう。しかし、他社出身者からかけられる有象無象のプレッシャーはつらいものがあったのではないか。実際その後、ソニー出身者の相当数の技術者がJDIを自主退社している。

何れにしても、ソニー出身者、他社出身者、それぞれのサイドからの愚痴が社外の人間に伝わってくるくらいなので、内部的には相当な問題だったことが想像できる。

さらに組織面でも出身企業毎の単位を積極的に解消することはしなかった。例えば、日立出身者で固められた組織を日立出身者が管理する、そういう状態をずっと続けてきたのだ。経営側の言い訳としては、顧客とのビジネスを円滑に継続するため、ということらしい。
しかしこれでは統合によって得られる効果など何一つ産まれないではないか!出身会社同士の不毛な内戦になるのは日の目を見るより明らかで、競合他社との戦いこそに割くべき戦力が大幅に削られることは避けられない。

なぜこんな状況を放置してしまったのか。

確かに、産業革新機構経産省による経営介入がこの問題を解消できなかった主原因であることは間違いない。ただ、経営危機の真っ只中にあって役人からも見放された今になっても今だにその組織を継続していることを鑑みると、これはJDI自身の問題だと考えざるを得ない。

経営者としては、役人と刺し違えるくらいの覚悟をもってこの問題点を早い段階で解消する必要があった。経営者の責任とはそういうものではないのか?

それが唯一できたとすれば、産業革新機構経産省からの縛りが最も少なかった、エプソン~ソニー出身の有賀氏(2015-2018 代表取締役社長)だけだったろう。彼にはそうした問題を解決してくれることを期待していただけに、大変がっかりしたことは否めない。

2019/07/14 黒♭

前回記事:ジャパンディスプレイ、何もしなかった罪 #1
前々回記事:死臭のするジャパンディスプレイに集まるハイエナライター

 

ジャパンディスプレイ、何もしなかった罪 #1

先の記事で言った通り、7年もの間、諸問題に何ら対処しなかったJDI経営陣の無責任について語る。

「何もしなかったとは失敬な!」恐らく彼らからはこう反論されるだろう。
「戦略的に技術の差別化と他社先行を狙い、インセルタッチフルアクティブを開発してきて、それはほぼ狙い通り成功した。」と。

確かに一時的とは言え他社に先行できたことは事実である。しかし、技術の差別化という点では明らかに不十分であった。その後すぐにJDI製のパネルよりも性能や品質が少なからず悪いものの、より安価なものが他社で開発されるにつれ、JDI製を選ぶ理由がなくなった。また、他社LCDとの戦いに明け暮れているうちに有機ELというゲームチェンジャーに市場を持っていかれてしまった。

そもそも戦略的に間違っていたのである。

だが、その結果的に間違った戦略でさえ、下で述べる縛りを徹底的に排除して経営としてやるべきことをやっていれば成功できた可能性がある。

ジャパンディスプレイの設立から7年。その間何もしなかったのはナゼか。関係者の話を総合すると、下の縛りがあったとのことだ。

(1) 安倍政権に対する忖度の縛り
(2) 元会社の縛り
(3) 社外に対するアナウンスの縛り

それぞれ説明していこう。

(1) 安倍政権に対する忖度の縛り
 JDIは2017年にも倒産の危機があった。結果的に銀行、産業革新機構からの借入、JOLEDへの資産押しつけで倒産を回避したのだが、このときも銀行側としては出資に乗り気でなかったと言われている。しかしこの頃、安倍政権はアベノミクスの効果が全く出てないと野党に盛んに責められていて、そんなタイミングで国の資金を注入したJDIを倒産させる訳にはいかなかったのだ。経営の常道としてはこの時点で失敗を認め膿を出し切るべきだったがその絶好の機会を失ってしまい、より経営を悪化させる原因を作ったとも言える。
 残念なことにこの縛りは今時点でも続いている。7/21の参院選前にJDIが倒産することは絶対に許されない状況だ。現在の中台ファンドからの資金調達は所詮当面の運転資金を賄うだけに過ぎず、これ以上の資金調達が難しいなかでは第二弾の抜本的なリストラが急務である。昨日発表されたスマートフォン事業の分社化がそれに相当すると思われるが、実施時期は本年12月末である。ドッグイヤーの世界で半年以上ものブランクは自然死を意味する。
 JDIの経営にスピード感が無いと言われているのは、主にこの縛りが大きい。

次回、(2) 元会社の縛りについて語る。

 

2019/07/13 黒♭

 

前回記事:死臭のするジャパンディスプレイに集まるハイエナライター
前々回記事:文春砲恐るるに足らず by JDI

死臭のするジャパンディスプレイに集まるハイエナライター

ジャパンディスプレイに関する記事が多くなったのはいいこと。

国の資産を注ぎ込んだ会社なのだからもっと皆に関心を持ってもらいたいと願うし、JDI自身が日本の社会・会社の悪いところを反映した典型的な会社だと考えるので、もっともっと反面教師として見てもらいたいと思う。

しかし一方で、意見・主張がまったく無い記事、重みが全く無い記事も数多く、ライター側のスキル・ポリシーの無さにあきれることも多い。先の文春もそうだし、下の記事はさらに最悪。

news.nicovideo.jp

平均給与が高いとか、いまさら何をのたまうのか。そんなことは既に2014年の上場時には市場関係者に指摘されていた。今記事を書くなら、そんな状況が分かっていながら5年もの間その問題に何ら対処しなかった経営者らの無責任ぶり(問題A)についてであろう。

このライターはジャパンディスプレイに統合されてから仕事の裁量がなくなった!的なことを言っている人間のことを真に受けている様だけれど、近くで見ていた私から言わせればそんな問題は統合前から顕在化していた話。この点に関して今私が記事を書くなら、実績主義をいびつな形で導入した経営者らの無知(問題B)についてであろう。
実際、この記事に対する読者のコメントの方がよほど良い意見になっている。

こんなハイエナライターがのさばる様ではいけない。
次回以降、上記の問題A、問題Bについて私の思うところを書こうと思う。

 

2019/07/10 黒♭
(Rakuten Blogから引っ越しました。)

 

前回記事:​​文春砲恐るるに足らず by JDI​
前々回記事:​​イノベーションのジレンマとは人々の心理が分からないこと​

文春砲恐るるに足らず by JDI

 

 

文春さん、「舞台裏」というほどの内容がどこにも書いてないんですが。
ネット上の情報だけで書ける記事。取材力が無いのね。bunshun.jp

 

薬にも毒にもならない芸能人の不倫ネタで文春砲とかちゃんちゃらおかしい。本当に文春砲が狙うべきはこういう国民の利益・財産に直結する内容でしょうが!

JDIがひた隠しにしてる、某海外企業との契約のこじれから生じた隠れ不良資産の話とか、そういうのをちゃんと暴露してよ。

 

2019/06/26 黒♭
(Rakuten Blogから引っ越しました。)

 

前回記事:​​​イノベーションのジレンマとは人々の心理が分からないこと​
前々回記事:さらなる「JDIに追い銭」は既定路線なのか?​​

イノベーションのジレンマとは人々の心理が分からないこと

ジャパンディスプレイ、本当にどうなっちゃうんですかねぇ。ファンド側は、JDIを一度倒産させた上で買い叩いてその後のV字回復を狙ってるのかも。クワバラクワバラ。
JDI社員に知り合いが多いから本当に本当に心配しています。SNSを見る限り彼らの動きが最近見えないんですよ。SNSに私事をアップするのが不謹慎に感じるくらいヤバイ?

newswitch.jp


で、VisionoxとTCLですかぁ。なるへそ。それならあり得ますね。
Visionoxは有機EL専門会社のくせに技術レベルが大陸内でも最低です。TCLは何でもかんでもやってるけれど、技術レベルはVisionox同様に低く、商売するレベルに持っていけない体質があります。どちらも確かに、喉から手が出るほどJDIの技術者が欲しいことでしょう。
「大陸に行くなら雇用継続、日本に残るなら解雇。どっちを選びます?」と株主様に言われる日が近い...。


閑話休題

「総ての液晶が有機ELに置き換わる!」
約10年前私がこう言いまわっていたときのこと。いわゆる専門家ほど私を小馬鹿にしてくれました。有機ELは液晶に比べてコストは高いし、焼き付きの問題はあるし、消費電力も高いし、云々。確かに技術的に考えればそうなんでしょうね。私も専門家の端くれです。そんなことあなた方に言われなくても分かってますよ。

でも今実際に起こっていることを見ると、技術面から見た正しさなんて何も意味が無いことが分かります。こんなことがありました。

今年の春、長らく使っていた液晶TVの動作がおかしくなっちゃったので買い換えることにしたんです。都内の大型家電量販店に行き、32~42型のFHD液晶を選んでいて愕然としましたよ。その安さに?いえいえ違います。その画質の汚さにびっくりしたんです。
その瞬間「あぁ、またか」と過去のことが頭をよぎりました。90年台後半に起こったSTN液晶 vs a-Si TFT液晶、2000年台前半に起こったMIM液晶 vs a-SiTFT液晶の戦い。ここではSTN液晶 vs a-SiTFT液晶の戦いについて、そこで何が起こっていたのかを語りましょう。

その頃既にSTN液晶は旧世代の技術と認識され、早晩a-SiTFT液晶に置き換わるとの流れはありました。でもその流れに抗う様に、STN液晶でも新たな技術(MLA駆動)が開発され、a-SiTFT液晶並みの画質を実現できることが実証されていました。
しかしその時STN液晶の開発者たちはお客様にこう言われました。
「a-SiTFT液晶と同じ程度の画質なのは結構。でもコストが現行STN液晶より高くなるなら、元々高いa-SiTFT液晶でいいよ。新技術感があって売り込みやすいし。」
結果、STN液晶はMLA駆動を開発したがゆえに逆により一層のコストダウンを求められ、汚い画質のものしか作れなくなり、ついには安すぎて作ることすらできなくなりました。
その頃の状況にそっくりと感じたのです。

画質を上げる技術はたくさんあるのに、32~42型のFHDなんて安すぎてそういう技術を採用することができないんです。一方で55~65型の4K液晶は今でも十分に綺麗ですよ。そこに使われている技術は32~42型のFHD液晶にも当然使えるんです。でも、使えないんです。
高画質を求める客にはお店としてはもっと大型のサイズを勧めるでしょうし、精細度も4K,8Kが良いですよと言うに決まっています。お客様対応時間あたりの利益を考えれば自ずと明らかです。小さいサイズでFHD、でも高画質が良いなんていう面倒な客は甚だ効率が悪い。そんな客を相手しているよりも、小さくてただ安けりゃいいという需要はまだまだあるのでそれで良いじゃないかと。
で、店に並んでいる液晶が汚い画質のものだらけになる、安かろう悪かろうが当たり前になる、安すぎて作れなくなる、結果次世代の技術のもの(有機EL)しか作れなくなる。
実際、今まさに液晶 vs 有機ELで全く同じことが起こっているんです。

JDIの液晶も実はそのMLA駆動STN液晶の轍を踏んだだけのことなんです。インセルタッチとかフルアクティブとかコストが高くなる方向で有機ELに臨んだら、そりゃ有機ELでいいや、ということになるのは明らかだったわけです。

イノベーションのジレンマに陥ったJDI。
確かに技術的に見れば液晶は有機ELに負ける気がしなかったでしょうね。でも最終顧客、販売店の人達の心理が分かっていれば、ジレンマに陥ることは無かったんじゃないかと思います。

 

2019/06/25 黒♭
(Rakuten Blogから引っ越しました。)

 

前回記事:​​さらなる「JDIに追い銭」は既定路線なのか?​
前々回記事:で、JOLEDは大丈夫なの?​

さらなる「JDIに追い銭」は既定路線なのか?

JDI設立時に私はJDIは5年もたないと予言して来た。JDIに転職したいと後輩から相談され、そう言って止めた。後輩よ、私の言うこと聞いておいて良かったろう?

www.asahi.com


JDI、中台の企業連合から「出資の可否通知ない」って?
うーん、まさかとは思うけど破綻させないよね。選挙前のこのタイミングで破綻されたら安倍政権が困ることになるわけで。とすると、また国民の血税が注ぎ込まれるのかなぁ。いやほんとに勘弁してくれ。
ひょっとして、さらなる盗人に追い銭ストーリーは既定路線なのか?
実は、中台連合の資金援助が得られないことはずっと前に分かっていて、追い銭の前に責任をはっきりさせるために経営陣が先に退陣した、とかいう話だったりして。
怖い怖い、くわばらくわばら。

さて、JDIがここまで駄目になった原因について、日経ビジネスの佐伯さんがとても良い記事を書いてる。

business.nikkei.com

 

彼によるとJDIがここまで駄目になった理由は下の3つ。


 1) 過度のアップル依存
 2) 技術への過信
 3) 主体性なき経営体制


その通り!
コモディティという安っぽい理由でかたつけようとする安っぽい経済ジャーナリストが多い中、久しぶりに読める記事に出会ったよ。
でも欲を言えば、もう一段階、記者の目から原因を深掘りして欲しい。ジャパンディスプレイのケースは日本の根本的な問題と思えるから。

また、見方を変えて、大手電気メーカー、ソニー・日立・東芝パナソニックらが自らの責任としてやらねばならなかったリストラを政府と国民に押し付けた罪はどうなのだろう。無論、道義的な意味で、だが。
大手電気メーカーにはJDI設立時に有機EL事業を手放さず、結果的に技術を遅れさせた罪もある。JDIは有機ELの開発で大変苦労したはずで、それが経営判断を鈍らせた側面もあるだろう。有機ELの遅れは大手電気メーカーの戦略の稚拙さが招いたものとも言える。

こんな考えはいかがですか?スポンサー様の道義的責任を問うような記事は書けないですかね。

 

2019/06/16 黒♭
(Rakuten Blogから引っ越しました。)

 

前回記事:​で、JOLEDは大丈夫なの?​
前々回記事:​JDIと純粋な技術者の悲哀​